大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和49年(ラ)545号 決定

抗告人

保証乳業株式会社

右代表者

小林康浩

右代理人

江橋英五郎

ほか二名

主文

原決定中抗告人の申立を却下した部分を取消し、

本件を千葉地方裁判所八日市場支部に差戻す。

理由

抗告代理人は、本件競売開始決定中却下部分を取消し、さらに相当の裁判を求めると述べ、その理由として、別紙のとおり主張した。

よって按ずるに、記録によれば本件の事実関係は次のようであることが認められる。すなわち抗告人と山崎房夫、山崎い外一名とは昭和四八年二月二八日付牛乳等売買取引に関する契約公正証書により牛乳等売買取引契約をしたが、右公正証書の第二条には、被告人は自己の処理した牛乳等を昭和四八年二月二八日から毎一日につき牛乳等供給量価格最低限度額を金二万円として房夫に供給し、房夫は抗告人の専属販売店としてこれを附近消費需要者に小売販売するものとし、取引期間は一〇年とするが、その期間満了にさいして抗告人又は戻夫が互いに相手方に対し契約終了の意思表示をしない場合は延長されるものとし、契約終了の意思表示をするときは少くとも期間満了の三カ月前までに文書でするとの旨の記載があり、その第二二条には抗告人又は房夫が本契約に違反した場合は当事者は本契約を解除することができ、解除された当事者は相手方に対し即時一〇〇万円の違約金を支払うものとする旨の記載があり、その第九条には山崎いがその所有する本件物件上に抗告人のため左記要項による順位第一番の根抵当権を設定する旨約した、一、極度額四〇〇万円、一、被担保債権の範囲1、第二条記載の商品取引契約により抗告人が取得するいつさいの債権2、抗告人が第三者から取得する手形上、小切手上の債権一、確定期日昭和五二年二月二八日(以下略)、その後房夫は抗告人から売渡を受けた牛乳等の代金を支払わないので抗告人は右取引契約を解除し、未払代金六四万八、五七〇円及びその遅延損害金並びに約旨に基づく違約金一〇〇万円の支払を求めるため、本件物件につき根抵当権を実行しようとして本件不動産任意競売の申立をした。これに対し原審は右売買代金及び遅延損害金債権については競売開始決定をしたが、右違約金請求権はついてはこれが本件根抵当権の被担保債権の範囲に属しないとして申立を却下したのである。以上の事実関係に基づいて考えるに、本件根抵当の担保すべき不特定の債権の範囲につき当事者間の設定行為の定めるところは前記公正証書による契約中その第二条記載の商品取引契約により抗告人が取得する一切の債権(他の手形上、小切手上の債権については省略、以下同じ)としているものであることが明らかである。従つて問題は右公正証書第二二条に定める違約金債権は右商品取引契約より生ずるものといいうるかどうかである。なるほど右の関係を右公正証書の条項の文言に即して解釈すれば、被担保債権の範囲は第二条の商品取引契約から生ずるものすなわち商品代金に限られ、右違約金は第二条の取引から生ずる債権とはいい難いように見え、もしこれをも包含せしめたいならば設定契約において「第二条の商品取引契約」と記載するかわりに右公正証書による契約の全体を指称する文言を選ぶべきであつたともいえるであろう。しかし本件根抵当権の登記には債権の範囲として「昭和四八年二月二八日牛乳等供給取引契約」とあり、右第二条の取引についてはその代金支払時期その他の取引条件は公正証書の他の条項において定めており、これに一般に違約金の約定は損害賠償の予定と推定せられ(民法四二〇条三項)、一定の取引契約から生ずる元本債権の拡張としてその同一性を是認せられることをあわせ考えると、本件設定行為における当事者の意思は単に商品取引から生ずる代金債権のみでなく、右取引条項を包括する昭和四八年二月二八日の公正証書によつてなされた牛乳等売買取引契約全体から生じて抗告人の取得すべきすべての債権を金額四〇〇万円を限度として本件根抵当権によつて担保せしめるにあつたものと解するのが相当である。右違約金が単に代金不払のときのみでなく、契約に定めた諸他の不履行からも生ずること、右違約金についてのみ執行認諾の意思表示のあることはなんら右解釈を左右するものではない。すでに当事者の設定行為の趣旨をかく解しうるとするならば、それが民法三九八条ノ二の規定する「特定ノ継続的取引契約ニ因リテ生ズルモノ」なる要件をみたすものといいうることは自明であり、その被担保債権の範囲を表示するについて用いられた登記の文言が前記のとおりである以上、これをもつて第三者の利益を害するものともいいえないこともちろんである。

しからば抗告人の主張する違約金一〇〇万円の債権は、もし真実実体上有効に発生したものであるならば、本件根抵当権によつて担保されるものというべきことは明らかである。

したがつてこれと異なり違約金は本件根抵当権によつて担保されないとして、抗告人の競売申立を一部却下した原決定は違法として取消しを免れず、本件抗告は理由がある。

よつて主文のとおり決定する。

(浅沼武 加藤宏 園部逸夫)

別紙 抗告の理由《省略》

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例